いかに囲碁を伝えるか?今回のプロジェクトは、その新たな切り口の一つにすることを目的としています。
こちらのクラファンページ プロ棋士による、誰でもすぐ遊べる囲碁型ボードゲーム「WOOLVES」を広めたい! – CAMPFIRE (キャンプファイヤー) では、柳澤は何者なのか?という半生から、このゲームにかける思いを綴りました。
今回は、約2年に及ぶ、ゲーム開発の模様を重点的に振り返りたいと思います。
目次
1.出発点は「囲碁棋士が監修する知育ゲーム」
そもそもの始まりは、 「囲碁棋士が監修した知育ゲームがあったら面白いのではないか」 という構想でした。 しかし、当然ながらゲームをゼロから作るのは簡単ではなく。早々に行き詰まりました。
そこで、ゲームデザイナーの方に参加してもらい、さまざまなゲーム案を出してもらうことに。 この頃から「知育ゲーム」というよりも、「囲碁モチーフのボードゲーム」 という方向へ少しずつ変化していったのです。

2.最初の壁――「囲碁らしさ」って何だろう?
初期案の一つには、囲碁のルールの一部を使いつつ、盤のマスの中にコマやカードを置くものがありました。
そこで改めて、 囲碁を知らない人にとって、 「石を交点に置く」 ということ自体が分かりにくいということを思い出しました。
しかし、この点だけは譲れませんでした。 「交点に置く」ことを捨ててしまったら、もはや囲碁をモチーフにしたゲームとは言えないのではないか、と感じました。
さらに問題は続きます。
囲碁の特徴の一部分だけを取り出し、分かりやすくしたり、派手なゲームにしようとすると、全く囲碁らしくなくなってしまう。この繰り返しでした。
この試行錯誤を通じて、 逆に「囲碁とはこういうゲーム」と簡単には説明できない、そのこと自体が、囲碁を囲碁たらしめているのではないか。
ということを再認識することになりました。

3.学生インターンが参加。大量のアイデアを試す
まだ方向性を探っていた頃、縁があって学生インターンにも参加してもらうことになりました。 この期間に大量のアイデアを出してもらい、テストプレーも繰り返しました。
後の「羊と狼」とはまったく違う、 忍者、赤い薔薇と白い薔薇、かぐや姫、登山、おすし大作戦…… などなど、さまざまな可能性が検討され、 悪戦苦闘の日々が続きました。

そんな中、ついに、 一人の学生の発案で「これはいける!」 と思えるゲーム案が生まれました。
ところが、詳しく調べてみると、台湾ですでに自分たちが考えていたものの完成形のゲームが発売されていることが分かったのです。
本格的に商品化へ動く前に気づけたのは幸運でしたが、「ついに見つけた」と思ったところで、また振り出しに戻った精神的なショックは大きかったです。
4.転機――羊と狼のゲームがやってきた
そこへゲームデザイナーさんから、次の案が出てきました。
狼は将棋の駒のように盤上を動く。 羊は囲碁の石のように新しい場所へ置いていく。 狼は羊の「拠点」を破壊しようとし、羊はそれを守る。 現在の基本ルールはすでにそこにありました。
そして「WOOLVES(ウールブズ)」 (羊毛のwoolと、狼の複数形wolvesを掛け合わせた言葉)という名称も、ゲームデザイナーさんの発案ですぐに決まりました。

ここからゲームバランスを調整するため、本格的なテストプレイが始まりました。 すると、これまでの案とは明らかに違う手応えがあったのです。
これまでも、もちろん「囲碁のルールを取り入れたゲーム」は作っていた。 しかし、不思議なことに、 プロ棋士である自分が、別に強くなかったのです。
つまり、囲碁っぽいルールが入っていても、実際に要求されている思考はあまり囲碁的ではなかった。 プレイしている感覚も、囲碁ではなかったのです。
ところが今回は違いました。 最初から自分が強かった。 つまり、 プロ棋士として長年培ってきた能力が、このゲームではそのまま強さにつながっている。
つまり、 このゲームでは、本当に「囲碁的な思考」を使っているのではないか。
それは逆に考えれば、 このゲームで遊ぶことによって、その思考を自然に身につけられるのではないか。 という仮説が生まれたのです。

5.「それ、もう囲碁なのでは?」――でも決定的な違いがある
これだけ読むと、「それはもう、ほとんど囲碁なのでは?」 というツッコミもあり得ると思います。 しかし、囲碁とWOOLVESには決定的な違いがあります。
囲碁を初めて覚える人にとって大きな壁となる、 「いつ終わるの?」 「どうなったら勝ちなの?」 という疑問が、WOOLVESにはない。
つまり 「勝利条件が明確である」 ということです。囲碁的な思考を使いながら、囲碁初心者がつまずきやすい部分を取り除けます。

6. 脱・石取りゲームを目指して
一昔前は、「石取りゲーム(ポン抜きゲーム)」と呼ばれる入門の教え方が流行りました。
石を取ることに特化したルールで、まず囲碁の入り口にしようというものです。
教えるのがカンタンだし、「取る」というのは何と言ってもわかりやすいので、盛り上がります。
しかし、これには大きな弊害があります。囲碁の本来の戦略は、石を取ることばかり狙ってはいけないのに、その悪い癖が身についてしまうのです。
WOOLVESはその点をクリアできています。石を取ることに相当するルールは出てくるのですが、相手を追いかけ回して取ることばかり狙えないようになっています。
ちゃんと、囲碁の方向に逸れないで、地続きになっていると思います。プロ棋士である私が「プレイしていて気持ち悪くない」という感覚があるからです。

7.第一次テストプレイ――現在の骨格が完成
テストプレイを繰り返し、 当初、端にあった拠点を中央へ移動。 さらに、 盤の大きさを7路盤に。 羊と狼の適切な数なども検討し、細かなルールを何度も調整しました。
かなりゲームとしての形が見えてきたところで、残念ながら学生インターンの期間が終了となりました。 ちなみに、この学生インターンのメンバーは、「囲碁ぴよ」のアニメーション動画囲碁ぴよと学ぶ囲碁ルールを制作したチームでもあります。
またこの頃、ゲームの世界観についても大きな転機が訪れました。 それまで単に「拠点」と呼んでいた場所を、 「灯火」にしてはどうか、というアイデアが出たのです。
ここから、 昼の世界を守る羊たち。 灯火を狙い、夜の世界を広げようとする狼たち。 この少し“厨二病的”な世界観が一気に膨らみました。 これによって、 羊はなぜそこを守るのか。 狼はなぜそこを攻めるのか。 という物語が生まれました。

8.「姿」を与える――ビジュアルデザイン
ゲームシステムや世界観とは別に「それを実際にどういう姿で表現するか」 という課題がありました。 ここで、ビジュアルを担当するデザイナーさんを迎えることができました。
すでに、 羊と狼 昼と夜 灯火 という世界観は生まれており、それを、盤、コマ、パッケージなどの実際のデザインへ落とし込んでいきます。
これに関しても、例えばオオカミの駒一つとっても、様々なデザイン案がありました。
そして最終的に、 現在のWOOLVESのビジュアルへとたどり着きました。これも、言葉でまとめてしまうとカンタンですが、かなりの試行錯誤がありました。

9. 第二次テストプレイ――「新ルール追加」
ここからは、開発メンバーだけではなく、 初めてこのゲームに触れる人たちに遊んでもらいました。色々な場にサンプル(まだ代用品の盤と駒)を持ち込んでは、 披露していったのです。
はじめはかなり不安でしたが、みんな熱中して遊んでくれ、「ゲームとして面白い」という確信は強くなっていきました。
しかし、プレイしてもらううちに、 「……このゲーム、もっと手軽にすることができるのでは?」 という思いが出てきました。
当初目指していた手軽な囲碁の入口という側面を強くするべく、思い切ってさらにシンプルなルールを追加することにしたのです。
新しいルールが本当に機能するかは分からない。 そこで、またテストプレイを重ねました。 そして、これまで何度も失敗してきた経験が、ここで生きてくることとなります。

特に大きかったのが、 「10ターンでゲームを終了する」 というルールでした。
これを含めてテストを重ねていくと、シンプルルールの方も、どうやら非常にうまく機能することが分かってきました。
こういうことをすると、大抵はゲームバランスが崩壊してボツになります。しかしこれに関しては、大きなルールチェンジにも関わらず、 さまざまな要素が不思議なほど噛み合いました。
その感覚は、 「作った」というより「授かった」 に近かったです。 少し厨二病的に表現するなら、 「顕現させた」 という感じでした。
もともとのルールをスタンダードルール、新たなルールをクイックルール、と当初は呼んでいましたが、世界観に合わせて「ダークルール/ライトルール」という名称を思いつき、採用しました。
10. ここからが始まり
ここまで、主に「囲碁への入り口」という視点からWOOLVESについて書いてきました。
しかし、WOOLVESは囲碁を知らない人のためだけのゲームではありません。
囲碁プレイヤーが遊んでも十分に奥深く、ヨミ、とりわけ攻め合いに通じるような感覚を、楽しみながら使うゲームになったと思っています。
いつか囲碁会の片隅にWOOLVESが置かれ、対局の合間に自然と遊ばれている。そんな光景が生まれたら、それも嬉しいことです。
さて、軽い気持ちで着手したこのプロジェクトですが、気づけばずいぶん長い旅になりました。
そして、ここまで開発秘話を読んでくださった皆さんも、すでにこのプロセスに参加している一人です。
WOOLVESがこれからどんな場所へ届き、どんな遊ばれ方をして、どんな姿へ進化していくのか。
僕自身にも、まだ分かりません。
ここまでが「WOOLVESができるまで」の物語。
ここから先の物語は、ぜひ皆さんと一緒に作っていけたらと思います。
