コラム

小説・碁盤斬りを読んで

草彅剛さん主演、映画・碁盤斬りが話題です。

色んな場所で囲碁を目にする機会が増えてとても嬉しいです。

映画にさきがけて出された、小説版を読んでみました。

スイスイ読めて、一気に読了しました。

率直に申し上げて、感動しました。

小説の作者・映画の脚本を手掛けられた

加藤正人さんが、

本の帯に書かれていた文章をそのまま引用します。

『格之進は貧しい貧乏暮らしをしているが、

品性があり、武士としての矜持をしっかり守り抜いている。

物語に登場する他の人物も、大切な人のために自分は犠牲になっても

構わないという高潔な精神を持っている。

日本人の心の底には、何よりも人間の品格や礼節を重んじるという

道徳観が流れているはずだ。

いまの時代に格之進のような人物像を受け止めてもらいたい……。

そういう願いを込めてこの小説を書いた。』

いまの時代、とはどんな時代でしょうか?

「失われた30年」

などというフレーズがありますが、

自分は物心ついた頃から、

失われゆく日本の姿しか見て来なかったことになります。

しかし、まだ失われる前の残滓を体験することができました。

これからの人は、すでに失われた日本しか見ていないことになります。

ここで「失われた」と呼んでいるのは、経済のことと思います。

しかし、日本文化もずいぶん消滅しているように感じます。

例えば、少し前に端午の節句がありましたが、

鯉のぼりを掲げている家など、トンと見かけませんでした。

何も、今から江戸時代に回帰しようというわけではありませんが、

よくわからないうちに、一方通行でこういうものがなくなっていくことには、

大変な寂しさを感じます。

そして囲碁もその一つであり、

その流れに抗したいと、

微力ながらもがいてきました。

「古き良き日本」

という言葉には甘美な響きもあり、

逆に拒否反応を覚える方もあると思います。

しかし、あえてここでは、

碁盤斬りには、古き良き日本、日本人の姿が描かれている、

と書きたいと思います。

そして、その姿には、囲碁が良く似合う。

常々そう思っていました。

こんなことを私ごときがほざいても、

「あっそう、だから何?」

と言われて終わるだけですが、

この思いを見事に作品化してくださったと感じます。

オリジナルを落語からとっているだけに、

いかにも昔ながらの人情噺が随所に織り込まれています。

そして、その中心に囲碁を据えてくださっていることに、

大変な感動を覚えました。

そもそも多くの落語の演目には

よく囲碁に夢中になる人が描かれますが、

それくらい囲碁が身近にあったことすら、

忘れられてしまいそうな現代。

自分はもちろん囲碁が好きですが、

囲碁を通じた人との関わりが好きでした。

まさに自分が囲碁を学ぶ過程で感じた感動や、

人とのつながりが描かれ、

そして、それが物語と密接にかかわってきます。

これが超豪華キャストで映画化されるというのですから、とても楽しみです。

ぜひ、この作品に多くの人に触れてくれることを願っています。

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